利益と資金繰り
黒字なのに現金がないのはなぜ?利益から手元資金までの確認順
損益計算書は黒字なのに、預金残高が減っている。これは数字の矛盾とは限りません。利益は一定期間の収益と費用の差、預金残高は実際の入出金を反映した残高であり、計上と支払の時期が異なる取引があります。
大切なのは、黒字かどうかだけで安心せず、利益がどこへ移ったかを数字で追うことです。この記事では、売掛金・在庫・買掛金、借入金の元金返済、設備投資を順に確認します。日本政策金融公庫も、これらを利益と現金がずれる主な要因として挙げています。日本政策金融公庫「黒字なのにお金がないのはなぜ?」
最初に、同じ期間の利益と預金増減を比べる
まず対象期間を決めます。例えば2026年3月期なら、その期の当期純利益と、2025年3月末・2026年3月末の現預金残高を比べます。途中月なら、同じ期間の月次損益と期首・期末の残高を使います。法人税等の計上・納付の時期で比較が変わるため、どの利益を出発点にしたかを明記してください。
数字が暫定の月は、未入力の売上・仕入、預金明細の未処理、売掛金・買掛金の残高を先に確認します。試算表が未確定なのに、利益と預金の差をすべて経営上の原因と決めつけないようにします。法人の月次経理チェックリスト
利益から現金への橋をかける
次は、仕組みを説明する架空の会社の1年間の例です。期間中の売掛金・棚卸資産・買掛金以外の運転資本の変動、税金の納付、その他の現金取引はないものとします。設備は現金で購入し、借入れの新規実行はありません。減価償却費30万円は当期純利益120万円に含まれています。
単位:万円
表は横にスクロールできます。
| 利益から現金へのつながり | 現金への影響 | 確認する意味 |
|---|---|---|
| 当期純利益 | 120 | 損益計算書の出発点 |
| 減価償却費を戻す | 30 | 当期の費用だが、この費用自体の支払はない |
| 売掛金の増加 | △150 | 売上に計上したが、現金をまだ受け取っていない分 |
| 棚卸資産の増加 | △80 | 現金を使って取得し、まだ売上原価になっていない分 |
| 買掛金の増加 | 40 | 仕入等を計上したが、まだ支払っていない分 |
| 借入金の元金返済 | △60 | 現金は出るが、元金は費用ではない |
| 設備の購入 | △50 | 現金は出るが、購入額をそのまま当期の費用にしていない |
| 現預金の増減 | △150 | 期首200万円なら期末50万円 |
この例は120+30-150-80+40-60-50=△150万円です。帳簿と資料から各変動額を計算し、期首現預金200万円と期末50万円の差△150万円と合うことを確認します。実務では、消費税、未払費用、税金、配当、役員との資金移動なども影響します。この表をそのまま自社のキャッシュ・フロー計算書として使うものではありません。
売掛金が増えているなら、回収日を見る
売上が増えた月に売掛金も増えることはあります。ただし、回収が遅れている売掛金と、契約どおり翌月に入る売掛金を一括りにしないでください。取引先別に、請求日、支払期日、入金済額、未回収額を確認します。
特定の取引先で入金が遅れている場合は、帳簿の残高を消す前に請求書と銀行明細を照合し、相手先の支払予定を確認します。売掛金の年齢分析の記事では、請求ごとの経過期間と支払期日の超過日数を分けて確認します。中小企業庁の資料でも、売掛金の回収条件と買掛金の支払条件を確認することが、資金繰りの検討に必要とされています。中小企業庁「収益力改善支援に関する実務指針」
在庫が増えているなら、理由を分ける
在庫が増える理由は、季節前の仕入れ、受注に備えた確保、売れ残りなどさまざまです。同じ在庫増加でも、来月の販売が確定している商品と、長期間動いていない商品では対応が違います。品目別に数量、保管期間、販売予定、追加発注の必要性を確認します。
決算日時点の在庫数量を確かめる方法は、決算日の棚卸の記事をご覧ください。利益と資金の違いを調べるときも、棚卸表の数量・評価単価と、実際の仕入代金の支払予定は分けて見ます。
借入返済と設備投資は、損益計算書だけでは見えない
借入金の返済額には、元金と利息があります。利息は費用として損益に反映されますが、元金返済は借入金の残高を減らす取引です。利益が出ていても、元金返済日に預金は減ります。返済予定表から、元金・利息と引落口座を分けて確認してください。日本政策金融公庫「決算書の見方」
設備を購入した場合も、購入時の支出と費用になる時期は通常一致しません。購入代金、支払時期、資産計上と減価償却をそれぞれ確認します。ここでいう設備投資には、借入金で購入した場合や分割払いの場合など、さらに資金移動が増えるケースもあります。支払額と会計処理を契約・請求書・固定資産台帳で確かめてください。
次の支払日までの資金を確認する
過去の1年で現金が減った理由が分かっても、来月の支払日を乗り切れるかは別に確認が必要です。現預金残高に、取引先別の回収予定を足し、給与・仕入代金・借入返済・税金・設備代金の支払予定を日付順に置きます。月末残高だけでは月中の不足を見落とすことがあります。資金繰り表の作り方
現金減少の要因ごとに、次の担当と確認日を決めます。
表は横にスクロールできます。
| 見つかった要因 | 次に確認すること |
|---|---|
| 売掛金の回収が遅い | 請求と入金の照合、相手先の入金予定、回収条件 |
| 在庫が増えている | 品目別の滞留、販売予定、発注量 |
| 買掛金の支払が集中する | 支払期日、口座別残高、先の仕入予定 |
| 借入返済・設備投資が重い | 元金返済日、設備代金の支払日、資金計画 |
よくある質問
黒字なら、税金を払った後も資金は残りますか?
黒字だけでは判断できません。税金の納付日、売掛金の回収日、仕入代金・借入返済・設備代金の支払日を並べて、口座ごとの残高見込みを確認します。法人税・消費税の中間納付がある場合も、中間申告・納付の記事を参考に予定へ入れてください。
預金が減っていれば、事業は赤字ですか?
そうとは限りません。売掛金や在庫の増加、借入金の元金返済、設備投資などで預金が減ることがあります。一方、借入れで預金が増えても、利益が増えたわけではありません。損益計算書と貸借対照表、入出金予定を分けて確認します。
利益と現金の差が説明できない場合は?
まず対象期間をそろえ、預金明細、売掛金・買掛金の内訳、在庫表、借入金の返済予定表、固定資産台帳を確認します。帳簿の未入力や二重登録があれば、差の分析より先に処理を整えます。
利益と資金を、毎月一緒に見る
一度きりの決算分析で終わらせず、月次で「利益はどう動いたか」「預金はどう動いたか」「次の支払日までに足りるか」を確認します。会社の数字を毎月どう見る?では、報告を受けた後の確認順を紹介しています。
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、月次の試算表と資金予定をつなぎ、売掛金・在庫・借入返済などの変化を確認する支援をご案内します。ご相談の際は、対象期間、使用中の会計ソフト、直近の試算表が何月まで確定しているか、近い支払予定をお知らせください。対応範囲と料金は着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。資料確認日:2026年10月20日。数値例は実在する会社のものではありません。実際の利益と現金の差は、会計処理・税金・資金移動を含めて確認します。