法人決算と棚卸
決算日の棚卸|法人の在庫数量・単価・帳簿を確認する順番
棚卸高の基準日は決算日(事業年度末日)です。 倉庫の商品を数えるだけでなく、決算日時点で会社に帰属する在庫の品目・数量・評価単価を確かめ、帳簿上の残高とつなぎます。売上原価や利益にも影響します。
この記事では、一般的な商品の仕入販売を例に、決算日前の準備、実地棚卸の記録、決算日時点への数量調整、帳簿との差異を順に整理します。製造業の仕掛品、建設業の未成工事支出金、特殊な評価方法や大規模な物流には追加の確認が必要です。
なぜ期末の在庫を確認するのか
商品を仕入れた金額が、そのまま当期の売上原価になるとは限りません。期末に売れていない商品があれば、原則として期末棚卸高に含め、売上原価の計算に反映します。
次は関係だけを示す架空例です。期首在庫・当期仕入・期末在庫は、同じ種類の商品について、同じ集計範囲・税抜基準で整理したものとします。返品、値引き、仕入付随費用、在庫評価損などは考慮していません。
単位:万円
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| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 期首棚卸高 | 300 |
| 当期仕入高 | 900 |
| 販売可能な商品の原価 | 1,200 |
| 期末棚卸高 | △250 |
| 当期の売上原価 | 950 |
売上原価は300+900-250=950万円です。期末在庫250万円を見落としてゼロとすると、同じ前提では売上原価を250万円多く計上することになります。ただし、この250万円は税額ではありません。正しい期末棚卸高は、数量と適用する評価方法を確かめて計算します。国税庁は、棚卸資産の期末数量を実地棚卸と帳簿記録で確認し、選定した評価方法により価額を計算することを説明しています。国税庁「税大講本・法人税法 第5章 棚卸資産の評価」
決算日前に「何を、どこで、いつ数えるか」を決める
棚卸高の基準日は決算日です。実地棚卸を決算日以外に行うなら、実地棚卸日から決算日までの入庫・出庫を加減し、決算日時点の数量へ合わせる記録が必要です。担当者、保管場所、品目の識別方法、計数単位、再確認の基準を決めてから始めます。
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| 準備するもの | 確認する内容 |
|---|---|
| 品目一覧・在庫台帳 | 品番、品名、規格、保管場所、帳簿数量 |
| 入出庫の資料 | 仕入・返品・販売・移動・廃棄の日付と数量 |
| 期末前後の取引資料 | 発注書、納品書、出荷記録、検収記録、請求書 |
| 外部保管の資料 | 倉庫業者や委託先の在庫報告、預け在庫の照合 |
| 評価の資料 | 選定・届出済みの評価方法、仕入単価や原価計算資料 |
自社の倉庫にあるものだけを数えると、外部倉庫や取引先に預けた自社在庫を漏らすおそれがあります。逆に、他社から預かったものを自社在庫へ含めてはいけません。期末の未着品や出荷中の商品は、契約上の引渡し条件、入出庫記録、売上・仕入の計上基準と照らして確認します。国税庁の確認表も、期末の預け在庫と未着品を棚卸対象として確認する項目を設けています。国税庁「大規模法人における税務上の要注意項目確認表・解説編」
当日は、数えた原始記録を残す
実地棚卸では、品目・保管場所ごとに数量を記録します。数えた結果を後でまとめて入力する場合も、当日の棚卸票やメモを残し、修正したら修正前の数量と理由が追えるようにします。棚卸票に単価がまだ入っていなくても、数量の記録を先に確定させます。
同じ商品が複数の場所にあるときは重複に注意します。箱入り・開封済み・破損品を混ぜずに数え、誰がいつ確認したかを書きます。棚卸の対象から外した品物があれば、他社所有、販売済み、処分済みなど、その根拠を残してください。
法人税法上、棚卸表は保存対象の書類の例に含まれます。帳簿や取引関係書類と一緒に保管し、保存期間は申告状況に応じて確認します。国税庁「帳簿書類等の保存期間」
数量差と評価単価を分けて調べる
棚卸票と在庫台帳が一致しない場合は、差額を一括で調整する前に、次の順で調べます。
- 基準日を決算日にそろえる:実地棚卸日と決算日の間に入庫・出庫した取引を反映する。
- 品目・場所をそろえる:品番違い、保管場所の移動、二重計数や数え漏れを確認する。
- 取引資料を確認する:返品、未着、出荷済み、検収待ち、廃棄の記録と突き合わせる。
- 差異の理由を残す:破損、紛失、入力誤りなどを区別し、承認者を決める。
- 単価を確認する:数量が固まった後、会社が適用する評価方法に沿って価額を計算する。
法人税では、棚卸資産の評価方法を種類等に応じて選定する仕組みがあります。選定した方法の届出状況や、前期までの計算方法を確認してください。国税庁の届出書の記載要領には、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法、低価法などが示されています。今回の利益に合わせて単価を選び直すことはできません。 国税庁「棚卸資産の評価方法の届出書の記載要領」/国税庁「税大講本・法人税法 第5章」
破損品や長期滞留品も、見つけた時点で機械的にゼロ評価にしないでください。状態、処分・販売可能性、保管期間、実際の処分記録などを分けて残し、会計上・税務上の評価を確認します。低価法にも判定方法があります。国税庁「法人税基本通達・低価法」
棚卸結果を決算へ渡すときの確認項目
棚卸結果を会計ソフトに反映する前に、次の資料を一組にします。
- 棚卸の基準日、実施日、対象拠点、担当者と承認者。
- 品目別の数量、単価、金額と評価方法。
- 帳簿数量との差異、調査結果、修正の承認記録。
- 期末前後の仕入・販売・返品・移動の資料。
- 預け在庫、未着品、他社からの預かり品の確認結果。
- 破損品・長期滞留品の状況と判断資料。
決算前に記帳が終わっていない場合は、まず未入力月と不足資料の整理から始めてください。預金や売掛金なども含めた差異の追い方は、試算表の残高が合わないときで説明しています。
よくある質問
会計ソフトの在庫数量が出ていれば、実地棚卸は不要ですか?
帳簿数量だけでは、破損、紛失、入出庫の入力漏れなどを見落とすことがあります。現物の数量と台帳を照合し、差異の理由を記録します。確認方法は品目や拠点の規模に合わせて設計してください。
倉庫にない商品は棚卸しなくてよいですか?
そうとは限りません。会社に帰属する外部倉庫の保管品や預け在庫、期末の未着品も確認します。逆に自社倉庫にある他社からの預かり品は区別します。所有関係と売上・仕入の計上時点を資料で確かめてください。
売れ残った商品は、決算で全額経費にできますか?
売れ残りという理由だけでは全額を費用にできません。数量と評価方法に基づいて期末在庫を計算します。破損や陳腐化などの事実がある場合も、個別の状況と適用要件を確認します。
棚卸を、来期の仕入・販売の判断にもつなげる
期末棚卸高は決算・申告だけの数字ではありません。長期滞留品、欠品しやすい商品、数量差が繰り返される品目が分かれば、来期の発注方法や在庫管理を見直せます。数字を経営判断に使う手順は会社の数字を毎月どう見る?にもまとめています。
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、棚卸表と帳簿の照合、決算整理、月次管理の進め方を会社の状況に合わせてご案内します。ご相談の際は、決算月、在庫の種類と保管場所、現在の在庫台帳、棚卸で困っている点をお知らせください。資料と作業量を確認し、対応範囲と料金を着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。資料確認日:2026年10月20日。金額は架空例です。実際の棚卸範囲・評価方法は事業、契約、届出、継続している会計処理に応じて確認します。