損益分岐点と目標売上
いくら売れば赤字を避けられる?損益分岐点売上高の出し方と使い方
「今月はいくら売れば赤字にならないか」を考えるとき、売上高だけでは答えが出ません。売上に応じて増える費用と、売上が少なくてもかかる費用を分ける必要があります。損益分岐点売上高は、一定の費用構造を前提に、対象とする利益がゼロになる売上高です。中小機構は、固定費を限界利益率で割る計算方法と、目標利益を加えた売上目標の求め方を示しています。中小機構 J-Net21「損益分岐点を使った目標売上高」
この記事では、月次の営業利益をゼロにする売上高を架空例で求めます。借入金の元金返済や税金の納付に必要な現金まで含めた「資金が足りる売上高」とは別に確認します。
費用を変動費と固定費に分ける
変動費は、販売数量などに応じて増減する費用です。商品の仕入原価、販売に応じた手数料、案件に応じて発生する外注費などが候補です。固定費は、一定の売上範囲では販売量が変わっても大きく変わらない費用です。家賃、常勤者の給与、毎月のシステム利用料などが候補になります。
費用の区分は、勘定科目名だけで一律に決められません。例えば外注費でも、売上案件ごとの費用と毎月一定額の契約では性質が違います。人件費にも残業代など販売量に連動する部分があります。まず対象期間と事業の実態に合わせて分け、前月と比較するときは分類をそろえます。中小機構 J-Net21「損益分岐点の計算方法と活用」
売上高から変動費を差し引いた金額を限界利益といいます。売上高に対する限界利益の割合が限界利益率です。限界利益で固定費を賄い、残った金額がこの例での営業利益になります。
架空の月次例で計算する
次は架空の会社の1か月です。売上・費用は税抜で、他の営業収益・営業費用はないものとします。
単位:万円
表は横にスクロールできます。
| 項目 | 月次実績 | 計算 |
|---|---|---|
| 売上高 | 1,000 | |
| 変動費 | △600 | 売上高の60.0% |
| 限界利益 | 400 | 1,000-600 |
| 固定費 | △300 | |
| 営業利益 | 100 | 400-300 |
限界利益率は400÷1,000=40.0%です。固定費300万円をこの率で回収するには、300÷40.0%=750万円の売上高が必要です。売上高750万円なら変動費は450万円、限界利益は300万円となり、固定費300万円を差し引くと営業利益はゼロです。
現在の売上高1,000万円と損益分岐点売上高750万円との差は250万円です。この差を安全余裕額、現在の売上高に対する割合250÷1,000=25.0%を安全余裕率と呼び、売上がどの程度下がると営業利益がゼロになるかを見る目安にします。中小企業庁の小規模企業白書も、損益分岐点売上高の売上高に対する割合を、売上減少への耐性を見る指標として説明しています。中小企業庁「2025年版小規模企業白書」第2部第1章
目標利益から売上目標を逆算する
赤字を避けるだけでなく、月に営業利益120万円を目標とするなら、固定費300万円と目標利益120万円の合計420万円を限界利益で得る必要があります。限界利益率40.0%が続く前提では、必要な売上高は(300+120)÷40.0%=1,050万円です。
ただし、売上を増やすための広告費や人員増、追加の設備費が必要なら固定費や変動費も変わります。現在の40.0%をそのまま当てはめられるか、販売計画と費用計画を見直してください。商品構成が変わり、限界利益率が30.0%まで下がるなら、固定費300万円に対する損益分岐点売上高は1,000万円へ上がります。
粗利率と限界利益率を混同しない
売上総利益率(粗利率)は、損益計算書の売上高と売上原価から求めます。一方、限界利益率は、管理の目的に合わせて売上に連動する費用を集めて求めます。販売手数料など売上原価以外の変動費があれば、粗利率をそのまま限界利益率として使えません。製造原価に固定的な費用が含まれる場合も同様です。
前月より粗利率が下がっている場合は、まずで売上・原価の内訳を見ます。損益分岐点の計算には、変動費と固定費の分類を別に用意します。
資金が足りるかは、支払日で確認する
損益分岐点売上高を超えていても、売掛金の入金が遅れたり、借入金の元金返済・設備代金の支払いが重なったりすれば、預金が不足する可能性があります。営業利益と入出金の時期は一致しません。黒字なのに現金がない理由と資金繰り表の作り方を分けて確認してください。
よくある質問
損益分岐点売上高は、毎月同じですか?
同じとは限りません。販売構成、仕入単価、家賃、人件費などが変われば、限界利益率や固定費が変わります。大きな条件変更があったときと予算を見直すときに再計算します。
売上総利益から販売費及び一般管理費を引くだけでは駄目ですか?
実際の営業利益を確認するには有用です。ただし、売上が何万円変わると利益がどう動くかを試算するには、売上に連動する費用と、一定額の費用を分ける必要があります。
損益分岐点を超えれば借入金を返済できますか?
それだけでは判断できません。この例は営業利益がゼロになる売上高です。借入金の元金返済、税金、設備代金と回収日を加え、実際の資金繰りで確認します。
売上目標を、利益と資金の両方で確かめる
まず過去の実績から変動費率と固定費を見積もり、損益分岐点と目標利益に必要な売上高を計算します。次に、販売数量・単価で達成できるか、入金日と支払日が合うかを確かめます。予算と実績の差を確認する方法
岡田健志公認会計士・税理士事務所では、月次試算表をもとに変動費・固定費を整理し、売上目標と資金予定をつなげる支援をご案内します。ご相談の際は、対象期間、主な商品・サービス、売上と原価の集計方法をお知らせください。対応範囲と料金は着手前にご案内します。
執筆:岡田健志(公認会計士・税理士)。資料確認日:2026年10月20日。金額は架空例です。計算結果は一定の販売構成・費用構造を仮定した管理上の目安であり、将来の利益や資金を保証しません。